インド五日目 ジャイプルへ

 寝台列車で眠り、目覚めてみると、同じボックスシートには、家族づれが座っていました。

夜のうちに泊まった駅で乗ってきたのでしょう。小学校低学年くらいの男の子二人、年少の女の子一人、母親らしき女性が二人、さらにその母親らしき年配の女の人。女の子はまだ眠っています。

片言の英語で話すには、ジャイプルにあるおじいちゃんの家に遊びに行く、とのことでした。

この家族が、実にいろいろな食べ物を私にくれるのです。マンゴーや、パン、ナッツ、お菓子。皆で一緒に同じものをつまむので、宿で言われた警告など忘れてありがたくいただきました。

一時間ほど遅れ、ジャイプルに到着しました。雨季のインドとはいえ、やはり砂漠の町。バラナシより暑く、乾燥しています。そして、車が多くて排気ガスが苦しく、うるさい。早速頭が痛くなってきました。これはきついかも・・。

帰りのデリー行き電車のチケットを買い、(あまりの暑さにエアコンシートを奮発してしまいました)声をかけてきたオートリキシャーの運転手が勧めるままに、家族経営のゲストハウスに向かいます。ガイドブックを持っていないので、何の情報も無く、もうジャイプルでは運転手任せにする事にしました。

テラスに面した部屋が、300ルピー。お父さんが、自分の部屋だと思ってくつろいで、と、にこりともせず言います。子どもたちが、実に良く働いています。冷水を使ったエアコン(すごく大きい)も付いているし、ここは良いかも。部屋に荷物を置き、シャワーを浴びて、早速観光に向かいます。

ジャイプルは古いまちで、ピンクシティと呼ばれています。ピンクに塗られた古い建物が多いのです。デザインもかわいいので、見ていて楽しいのですが、とにかく排気ガスと騒音がひどくて、ドライブを楽しむ事も出来ません。

運転手は、料金の話をすると、

「あなたが決めればいい。満足したらそれだけ払えばいいし、満足じゃなかったら安く払えばいい」

と言います。

「相場もわからないのに、値段の決めようがない。高いも安いもわからない」

と言っても、意見を曲げません。一体どういうつもりなんだか・・もう面倒になってきたので、本当に払いたい額しか払わない事にしました。

とにかく、古い建物が見たい。それだけ告げて運転手任せにしていると、大きな湖に連れてこられました。湖の中にマハラジャの使っていた別荘が建っています。

太鼓の音と歌声が聞こえてきたので、引き寄せられるようにのぞいてみると、簡単に建てられたテントのなかにたくさんの人が座っていて、年配のおじいさんに何事かを祈ってもらっています。この歌と太鼓の見事さに聞き惚れていると、歌っているおじさんが入れと手招きします。

この太鼓、叩いているのは十代とも思える若い男の子なのですが、手の動きが見えないくらいに早いのです。歌も、素晴らしい。

ラージャスターン地方は、イスラム教徒の多い地域だそうで、このお祈りがイスラムかヒンドゥかはわかりませんが、私の番が回ってくると(待っていたわけではなかったのですが手招きされました)おじいさんが私の頭に何度も孔雀の羽を振り、何事かを唱えてくれました。

歌っているおじさんに、お布施を、という身振りをされ、外国人だし、と20ルピー渡すとおじいさんは10ルピー返してきました。

たったこれだけの事が、とても嬉しく感じられました。

熱心な信者でもないのに、というか何の宗教かさえわかってない外国の小娘を迎え入れ、祈ってくれるなんて。この懐の大きさ。

その後、カーペットを作る工房などに連れていかれました。全て手作業なのですが、その技術が凄い。子供の頃から五十年近くじゅうたんを作っている、というムスリムのおじさんの、手元が見えないのです。(子供が1ダースいると言っていました)デザイン画を見ながら、色んな色の毛糸を手にして、どんどん編みこんでいきます。教えてもらいながら私もやってみました。なかなか面白かったのですが、一日中やっていたら、肩こりも腰痛も眼精疲労もひどくなりそうです。その後商談ルームのような場所に通され、大変な買え買え攻撃に苦労して何も買わずに出てくると、陽が暮れかけていました。

ドライバーの紹介で、アーユルヴェーダのマッサージが出来るというおばさんを紹介してもらい、受けてみる事にしました。

肝っ玉母さんという感じのおばさんに名前を聞かれ、私の名前はカナだと言うと、驚いて笑った後、おばさんは私の名前はマンジュウ だと言いました。今度は私が驚く番。

「まんじゅう?本当?日本での意味知ってる?」

「知ってる知ってる。マンジュウ、カナ。まんじゅう食べる」

ひとしきり二人で笑った後、おばさんはバイクの後ろに私を乗せて、自宅へと連れていってくれました。

頭の先からつま先までマッサージを教わり、その後ごはんをごちそうになります。野菜のカレーとチャパタ、あとヨーグルトにバナナを混ぜたスープは美味しく、ああ、今度こそお腹壊すかも、と思いながら満腹になるまで食べてしまいました。おばさんの子供やだんなさんみんなでテレビを見てゆっくりした後、ゲストハウスまで送ってもらいました。