インド四日目 バラナシ→ジャイプルへ

 今日は、朝からゲストハウスの近くの道場でヨガのレッスンを受けます。

家では、本を参考にしつつ自分でやっているのですが、レッスンを受けるのは初めて。

今日の生徒はカナダ人の二十歳の女の子と私だけでした。一時間半で、150ルピー。500円しません。

「ヨガの目的は、ポーズを取ることではなく、自分と向き合い、瞑想することにあります」

そう言って始めたヨガは、体を隅々まで動かしてストレッチする事をメインとし、難しいポーズは一つもないどころか、ヨガっぽいポーズもありませんでした。

最後に死体のポーズになり、静かな声で瞑想へと導かれるのですが、これが今まで体験した事のない気持ちよさなのです。意識はあるけど眠っているような・・時間の概念などが全て消えてなくなりました。どのくらいそうしていたのかも覚えていません。

体がふわふわしているような、とても気持ちの良い状態のままで道場を出て、ガンジス河に向かいます。

今日は夜行電車でジャイプルまで移動するので、ガンジス河を見るのもこれで最後・・目に焼き付けておこうと思い、河のそばで腰をおろしてぼうっとしていると、上流から何かが流れてきます。

人っぽい・・またサドゥの死体かな。そう思って見ていたら、普通の生きているおじさんでした。体中の力を抜き、ぷかぷか浮かびながら流されていきます。

見ていると、二人三人四人と後から後からおじさんたちが流れてきます。

雨季なので流れは結構速いのですが、力を抜いて、ガンジス河にすべてをゆだね、それがとても気持ちよさそうなのです。母なるガンガーに抱かれているのです。

適当なところまで流されて行くと、おじさん達は泳いでガートにたどりつきます。用事があったけど、歩くのが面倒だから、河に流されてきた、という感じです。

本当にインド人は面白い。

私の後ろでは、沐浴に来ているおじさん達が喧嘩を始めました。怒っているおじさんは、怒りに身を任せるというよりは、すねているようです。沐浴せず帰ろうとするのを、その場にいたおじさん達が口々になだめます。怒らせたおじさんもなだめつつ、またからかうので、怒っているおじさんの怒りはおさまりません。笑いつつなだめつつ、皆で沐浴します。

なんだか、人間がとても生なんです。

本当にインド人は面白い。

ガンジス河を後にして、電車の中で食べるバナナ、マンゴー(絶品!)と軽食を買って荷造りし、駅へと向かいます。

私の取ったシートは、エアコンなしの寝台車。320ルピーでした。順調に行けば13時間でジャイプルに着きます。

宿の人に、電車の中では気をつけなさい、睡眠薬を入れられるから、勧められても中で飲食したらだめですよ。

と散々言われ、どんな電車なんだと思っていましたが、危険な事が起こりにくいくらいオープンな車内でした。ボックスシートになっているのですが、皆が普段座るそれが三段目のベットで、二段目のベットは寝る時までたたまれています。私のベットは、一番上だったので、いつでも寝られるし、荷物も置いておけるし、人目につかないし、一番良いと思いました。荷物を早速くくりつけて鍵をかけ、三段目の、そのうち誰かの寝るシートに腰掛けて外を見ます。

電車は案外時間どおりに走り出します。

意外なことに、郊外に出るとそこからはずーっと田園風景でした。もっと手つかずのジャングルや、荒野を想像していたのですが、きちんと手入れされた田んぼがどこまでも続きます。後から聞いた話ですが、インドでは一年に三回お米が取れるそうです。

田園風景の中、鮮やかなサリーで歩いている女の人たち。同じくらい鮮やかな孔雀。(孔雀は沢山いました)しゃがんでいるおトイレ中の男の人たち。(孔雀と同じくらい沢山いました。みんなお通じがいいのかしら)インドの電車は想像していたよりずっと早く、スムーズな走りでした。

しばらく外を見ていると、男の人が、

「カナカナカナ・・」

と言いながら歩いてきます。

私の名前は加奈なので、てっきり呼ばれたのかと思い、はい、と返事しました。

「カナ?」

「はい」

答えたとたん、思い出しました。インドでは、食べ物のことをカナというのです。名前は、と聞かれ、加奈だと答えるたびに笑われたり、信じてもらえなかったりしたのに、すっかり忘れていました。どうやら私は車内の食事を注文してしまったようです。あれだけ注意されたのに。

しかし、食事が来てみると、とても睡眠薬を入れる時間なんて無いよ!と言わんばかりに忙しそうなおじさん二人が、注文を受けた座席にがつんがつんカレーを置いていきます。

外国人かインド人かも確認する時間すらないようだったので、これは大丈夫だろうと思い、カレーを平らげました。

意外に長く眠ることが出来、朝になってベットを降りてみると、乗客が代わって家族づれになっていました。

・・続く・・