インド三日目 バラナシ

 朝、遠くから聞こえる人々の歌声と、太鼓の音で目を覚ましました。五時半。

散歩しようと、ガンジス河のガート(沐浴所)に向かいます。

ガンジス河では、早くもインド人が沐浴しています。熱心に祈りながら、長い時間をかけて沐浴するおじさん。友達同士で話しながら、水遊びのように沐浴する男たち。普通に石鹸で体を洗っている人もいます。女の人たちも、サリーを身にまといつつ、ひっそりと沐浴しています。

屋台のチャイ屋の、素焼きカップに入ったチャイを飲みながらインドの人たちの日常を見ていると、どこからか歌声と太鼓の音が聞こえてきました。かなりたくさんの人の歌う大合唱が、少しづつ近づいてきて、気がつくと私はおじさん達の大合唱の中にいました。

あっという間に涙が出てきて、とまらなくなりました。

その歌の素晴らしさ。切なく、哀愁に満ちていて、しかも一人一人が情熱を込めて歌っています。そしてすごく上手い!みんな本当に良い声。みんなで合わせようなんてみじんも思ってないのに、神様に捧げるその歌は、一つの大きなうねりのようになっていました。すごいパワーを感じました。

多分、こんなに心を揺さぶられた事は未だかつてありません。茫然としました。

本当に来てよかった。

人が宗教を持つ、ということは、とても幸せで気持のいい事なのかもしれないなあ、と思いました。

すぐそばにある寺院に向い、お祈りをし、おでこにオレンジ色の粉で印をつけてもらい、いい香りのする花とろうそくをのせた葉っぱで作ったお皿をもらいました。火をつけて、大好きな人たちの事を考えながら、ガンジス川に流すのだそうです。

葉っぱのお皿は案外丈夫で、消えそうでたよりないろうそくの灯をのせてしばらく流れていましたが、そのうち沈みました。お花とろうそくだけはそのままばらばらに流れていきましたが、ろうそくもそのうちに見えなくなりました。

なんだか、清々しい気持ちになりました。

いろんなインド人が「ジャイプルはいいよ!」と言うので、寝台列車のチケットを買いに駅に向かいます。駅までの相場は20ルピーだと聞いていたので、リクシャーワーラーに20で行ってと言うとあっさりOK。そうなると、本当にいいの?私旅行者だよ、生活出来てるの?とその人を心配になるから不思議です。ふっかけられると、意地でも交渉するんですけどね・・。

無事、明日の寝台列車のチケットを手にいれ、サールナートというお釈迦さまが初めて仏の教えを説かれた場所にリキシャーで向かいます。

喧噪を離れ、緑豊かな道をリクシャーに揺られて行くのは、とても気持ちが良いです。途中小腹が空いたので、サモサが食べたいと伝えると、小さな店に寄ってくれました。そこのサモサの美味しいこと!ジャガイモとピーナッツが入ってるんですが、全然辛くないのです。美味しいものを食べながら、リクシャーに揺られる至福の時間を過ごし、サールナートに着きました。

でもここは何と言うか・・ただの公園でしたね。リクシャードライブの方が、私には楽しかったです。しかも、このリクシャーワーラー、痩せていて一見おじいさんなんですけど、とても感じのいい顔をしているんです。生まれた時から笑顔です、という感じ。典型的インド人とはちょっと顔が違うので、ネパールの山の方から来たのかな?とも思うのですが、不自由な英語で、いろいろ指さして何やら教えてくれるんですね。それが本人も楽しそうなんです。

ただ、かなり距離があって、帰りは一時間以上こぎ続けていたので、痩せたおじさんにはちょっと辛そうでした。

しかも、駅で話した時は、サールナートまで往復150ルピーで手を打ったのですが、帰る先をガンジス河の方に変えたので、ちょっと遠回りになったのですね。

着いたとたんに、若者達がどこ行くの?と近づいてきて、軽く人だかりです。リクシャーおじさんに、遠回りしたから、170ルピーでどう?と言うと、性も根も尽きたような顔のおじさん、はあはあ言いながら、ちょっと悲しそうな顔で肩を落として、いいよって言います。

そ、それは良くないのよね?あなた本当にインド人ですか!?このインドで生きていけますか!?

もうほとんどそのリクシャーおじさんを好きになっていたので、肩をたたいて笑いながら、大丈夫?と聞きます。まわりの人だかりもどうしたどうしたとおじさんに聞きます。

「すごく大変だったから、200ルピーくらいもらえたら嬉しいんだけど・・」

俯きながら言うのです。

回りの若者たちも、わいわい言ってきます。

「確かにこの人すごく疲れてるよ」

「サールナートは遠いよ」

「200払ってあげなよ」

「うーん、わかった。確かにあなたは大変だった。私は知ってるよ。200払うよ」

そう言うと、笑顔になるリクシャーおじさん。あなたの笑顔が私もうれしいです。

「ああ、この女の子はいい子だ。いい子だよ、みんな」

周りの若者たちが騒ぎます。

その夜は美味しいチーズのカレーを食べました。マイルドで本当に美味しかったです。インドではベジタリアンフードだそうです。

インドのベジタリアンは、乳製品はOKらしく、それなら私もできるかも、とインドに来てからはお肉を食べていません。でも、豆のカレーも野菜のカレーもチーズのカレーも種類が多くて、インドでは苦ではないです。だからお肉を食べない人も多いんですけど、みんな体格いいんですよね。油と乳製品のせいなのかしら。